収録曲「Bling-Bang-Bang-Born」についての投稿
DJ松永ならではのポップ感覚、R-指定のアニメにも寄り添ったリリック
4つ打ちならぬ5つ打ちのキック、ノリよく軋むベッドスクイーク、完全にジャージークラブを踏襲したトラックだ。
おもしろいのはカリンバ(親指ピアノ)のような音を装飾に使っているところで、そのコロコロとした音色がアフロビーツ的なエキゾティック感を演出しつつ、ジャージークラブ特有の躁的な雰囲気の中に柔らかなアクセントを加えている。楽曲ごとにさまざまなサウンドやジャンル感を意識的に採り入れつつ、ただのタイプビートではなく自分なりの色付けでアウトプットする、DJ松永ならではのカラフルなポップ感覚が息づいている仕事だ。そのジャージークラブの様式美に基づきながら、それそのものではない独自性、いい意味での異物感こそが、新鮮でおもしろい楽曲を求める世界に向けてのフックになったのではないだろうか。
さらに特筆すべきは、R-指定の卓越したラップスキルと多彩&ユーモラスなフロウ。彼のフロウの引き出しの多さは、これまでのキャリアで十分過ぎるほど実証済みだが(ご存じない方は、とりあえずCreepy Nutsの現時点での最新アルバム『アンサンブル・プレイ』を聴いてほしい)、冒頭のブロックでのフリーキーな語り口、早打ちガンマンのように次々と韻を撃ち(踏み)抜いていくヴァース部分、一度聴いただけで耳にこびりついて離れないキャッチーなフック、そのどれもが軽快で聴いていて心地良さを感じるほどだ。特にフックのロシア民謡のようなメロディーは中毒性が高く、思わず〈Bling-Bang-Bang-Born...〉と口ずさみたくなる。日本語を理解できなくても楽しい気持ちになれるフロウの快感と斬新さは、本楽曲が海外でも支持される理由の1つだと思う。
また、歌詞の内容に目を向けると、2番はR-指定自身のセルフボースティング的な内容にも見えるが、特に1番はアニメ作品にしっかりと寄り添ったものに感じる。「マッシュル-MASHLE-」は、魔法が当たり前のように存在する世界で、唯一魔法を使うことのできない主人公・マッシュが、魔法の力をも凌駕する人間離れした身体能力で周囲を圧倒してしまう、ファンタジー系コメディ作品。普通であれば魔法がなくては立ち向かえない難関や強敵も、己の身一つでねじ伏せ、解決してしまう、その痛快さとシュールさが持ち味となっている。
それを踏まえると、フックの〈生身のまま行けるとこまで To the next, To the 1番上〉というフレーズは、本作品におけるマッシュの存在と重なることがわかるはずだ(さらに同じフレーズが2番ではR-指定自身のポジションを表す言葉になっている)。